Seeker of existence




学校では既に二時限目が始まろうとしている時間だ。


「………」

しばらく無言で歩いていると、近所の顔見知りのおばさんが買い物かごをぶら下げて歩いてくる。

光也が会釈をすると、おばさんは少しビックリしたような表情をし……しばらくして、不自然ながらも軽く会釈を返した 。


(何かがおかしい……)

「何ていうか……すげえ、違和感がある……」

得体の知れない違和感を覚えながら、学校への道を歩く。


(ん?)

下駄箱の前に着くと、そこに背の高い男が立っている。

だが、男はまるで風景の一部のように存在感が希薄だった。

男は光也に気付き、すっと近づいてきた。


「教室には行くな……」

(!?)

光也は、思わず飛びのいて距離をとった。


「行っても、嫌な思いをするだけだろうからな」

「どういうことだ!」

この男が何者かはわからなかったが、自分の言葉に怒気がこもるのがわかった。


この男は、何かを知っている。


「知りたい事があるのなら別だがな……」

「あんた……何か知ってるのか!?」

光也は、警戒しながら後ずさった。


「教室には行くなよ……」

そういった後、男は光也の後ろを指差した。


(何かあるのか?)

光也がつられて指の先を見ると、ただ普通の廊下が延びているだけだった。


「なんだよ、何も……」

そう言いつつ、光也が向き直る。


「!?」

(さっきの奴……どこ行ったんだ?)

男の姿は、元からそこには誰も居なかったように消え失せていた。


「あいつ……『教室には行くな』とか、言ってたな……」

(何かあるのか? とりあえず、教室に行ってみるか……)

光也は、男の言ったことの意味を深く考えずに教室に向かった。





教室に着くとちょうど授業が終わったのか、数人の生徒がドアから出てきた。

その中に、友人である純の姿があった。


(あ、純だ)

「おーい、純〜!」

光也が声をかけると、純は振り向き光也を視界に捉えた。


「ん? 何か用……って、誰お前?」

(え?)

光也の脳裏に朝の不安がよぎった。


「おいおい、ふざけんなよ……俺だっつーの」

「俺って言われてもなぁ……どこかで会ったことあるのか?」

「冗談……だろ?」

「冗談? 俺、あんたとは初対面だと思うんだが……」

「何言ってるんだよ!! 俺だよ! 光也だよ!!」


「……悪いけど、俺もう行くから」

純は光也を気味悪そうに見ると、走って逃げてしまった。


(そんな……)

さっきの反応を見る限り、純が冗談を言ってるようには思えない。

つまり、純は本当に俺のことがわからないということになる。

それどころか母さんや近所のおばさんも、俺の事が本当に分からなかったのかもしれない。


(なんてこった……)

光也はその場から逃げるように立ち去った。





しばらく走っていたが、人気の無い校舎裏まできて足を止めた。


「これからどうしよう……」

光也は、今日起こった出来事を思い浮かべ始める。

そして……ひとりの人物を思い出した。


「あの男……」

光也は校門の前に立っていた、ひとりの男の姿を思い出していた。



『教室には行くな……』



光也の脳内を、男が言っていた言葉がよぎった。


(今思うと……まるでクラスの奴が俺のことを分からないというのを、知ってた感じだったよな……)

この異常な状況の中で、あの男だけは本質の違う異質さを見せていた。


「無駄足になるかもしれないけど……校門前に行ってみるか」

(まだ、あの男が居るといいんだけど……)


光也は、あの男がいた校門前へ向かった。





校門前に着くと、そこにはあの男が朝と同じように立っていた。

光也が来たことに気づくと視線を向けた。


「その様子だと、教室に行ったみたいだな……行かないほうがよかっただろう?」

感情のこもっていない、無機質な声。


「ああ、あんたの言うとおりだったよ……」

光也は、言葉に怒気を込め吐き捨てるよう言った。


「お前が今、どうなっているか……少しは理解したみたいだな」

男は片手を上げ、朝と同じ方向を指差した。


「この先に、お前の疑問に答えてくれる者がいる……出来るだけ急ぐんだな」

光也は廊下の先を見つめた。

だが、静まり返った廊下の先には特に何も見当たらなかった。


「あんた……何で見ず知らずの俺に、そんなに色々と教えてくれるんだ?」

光也が尋ねた答えを返す前に、男は煙のように消えてしまっていた。


(また消えた……)

「ま、他に行くあても無いし……行ってみるか!」

気合を入れて空元気を出すと、光也は男が指差した方向に歩き出した。





しばらく歩いてみても、特に変わったものはない。

静まり返っている廊下を歩いていると、前のほうに扉が見えてきた。

そこがゴールのように、光也の前に立ちふさがっていた。


「あそこに……何かを知っている人がいるのか?」

光也が扉の前に立つと、待ちかねていたかのように扉はすっと開いた。



そこには人が立っていた。

そこにいたのは少年だった。

真っ黒な服を着た少年だった。



「待っていましたよ、光也さん」

少年は微笑むと、光也を部屋へと招き入れた。





第1話 第3話

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