夢か現か幻か
Episode10:深夜の食卓
「ただいま」
祐一は見知らぬ少女を背負ったまま家に帰ると、そのまま居間に直行した。
テレビを見ていた名雪が、祐一に気づく。
「おかえり、祐い――」
振り向き――きょとんとした顔になる名雪。
視線は明らかに祐一の背中に担がれた少女へと向いている。
「あー……こいつはだなぁ……」
祐一が、どう説明したものかと悩みながら口を開きかけると、
「……大きなおでん種?」
流石と言うべきか、とんでもなく珍妙な解釈をしたようだ。
己の従妹ながら感心半分、呆れ半分の表情になりつつ、祐一は嘆息する。
「……いつから水瀬家は食人族になった?」
「あれ? ……人間?」
「そうだよ……悪いけど、こいつ寝かせとく部屋あるか?」
「うん、ちょっと待ってて」
名雪は頷き、パタパタと部屋を出て行った。
何も事情を訊かないのは、興味がないのか、何も考えていないのか……
“……ぽけぽけしてるだけだな、きっと”
割と酷い結論に至りながら、キッチンへと向か――
「おかえりなさい、祐一さん」
「――っ? は、はい、ただいま」
おうとすると、いつの間にかすぐ後ろに秋子が立っていた。
いったいいつから? などという疑問は持たないようにした。
どうせ訊いてもはぐらかすだろうし。
秋子は片手を頬に当てつつ、
「その子を今晩のオカズにするんですか?」
「思いっきり人聞きの悪いこと言わないでください!」
色々な意味で娘以上に危険なことを言う。
「冗談です」
笑顔のままの秋子に、買い物袋を渡しながら、祐一は疲れたように溜め息を吐いた。
「ご苦労様……なんだか大変だったみたいですね?」
「はあ…まあ……色々と………」
祐一自身、何がなんだったのかよく分かっていない。
ただ――秋子には報告しておくべきことがあることは分かっていた。
「秋子さん、実は――」
「ゆーいちー」
口を開きかけたところで、二階から名雪の声が聞こえてきた。
「…………後で話します」
「はい」
難しい顔をする祐一に対し、秋子はあくまでも微笑を浮かべていた。
その笑顔に背を向け、祐一は二階へと上がっていった。
階段を上がってすぐの部屋。
空き部屋だったそこに、名雪が布団を敷いて待っていた。
名雪に礼を言ってから、祐一は少女をそこに横たわらせる。
「やれやれ……買い物に行っただけなのに、無闇に疲れたぞ」
少女を背負っていたことにではなく、事態の不可解さと、帰ってきてからのやりとりにだ。
少女は見た目通り軽く、背負って歩くくらい、祐一にとってはどうということはなかった。
「ご苦労様」
名雪は彼の真意を知ってか知らずか、母親と同じように労いの言葉をかける。
「ああ……こいつは――寝てるだけだな」
気絶している――と言ったほうが正しいかもしれないが。
“ま、そんなに強く打ってないし、大丈夫だろ”
こっそり、名雪に聞かれたら白い眼で見られることは確実なことを、胸中で呟く。
「うん。そっとしておいた方がいいんじゃないかな?」
「だな」
名雪の言葉に同意し、腰を上げた。
「とりあえず、事情は下で話すよ。行こうぜ」
「うん」
名雪は少女が良く眠っているのをもう一度だけ確認してから、祐一に続いて部屋を出た。
「実はだなぁ――」
食卓を囲みながら、祐一は商店街での出来事をかいつまんで二人に説明した。
当然、少女を殴り倒した件に関しては言葉を濁したが。
目の前にはおいしそうに湯気を上げる料理が並んでいたが、大事な話の最中だったので、手を出す者はいない。
「ふーん…『あなただけは許さないから』…………か。祐一、あの子に何したの?」
「何もしゃちゃいない。いきなり襲い掛かってきたんだ」
確かに、襲い掛かられる〈前〉は何もしてはいない。
秋子は首を傾げながら、
「でも、きっかけとかあるでしょう? ぶつかったとか、知らない内に迷惑をかけていたとか」
「それがまったく思い当たらないから、辟易してるんですよ」
人通りの多い商店街でなら、そういうこともあるかもしれないが、そもそも少女は、祐一が商店街に向かっている途中から尾行していた。
昨日、一昨日と商店街の中を――成り行きで――駆け回ったことはあったが、その時に他人にぶつかったりしたことはなかったはずだ。
ぶつかってきた奴はいたが。
「顔に覚えは?」
「もちろんありません」
「そう…なら、今のところ思い当たる理由はないんですね?」
「ええ。向こうも詳しい事情を言いませんでしたし……あいつが目を覚まさないと、どうにもなりませんね」
祐一は自分で気絶させておきながら、しれっと言う。
「でも、きっとあの子なりの理由があるんでしょうね」
「でしょうけど、勘違いですよ、絶対。顔が似てるだけだとか、声が似てるだけだとか」
「誤解だったら、その誤解を解いてあげないと」
秋子が諭すように言う。
「そうすれば、謝ってもくれるし、解決するでしょう?」
「そうなんですけどね……」
果たして、あの少女がまともにこちらの話を聞いてくれるかどうか。
「誤解じゃなくて、祐一のとんでもない過去が、暴かれたりしてね」
珍しく、名雪がからかうように笑った。
「そんな過去は――」
――ない。
と言いかけて、言葉に詰まった。
7年前の記憶の空白もある。
そして、それ以外の覚えている記憶をさらってみても、決して平々凡々とした人生だとは言えない。
だがそれでも、特に〈人〉に恨まれるようなことは、してこなかった……はずだ。
「――うん。そんな過去はないぞ」
「…………随分と間があったけど」
冗談を真剣に考え込まれ、少し困った顔になる名雪。
「何にせよ……もう遅いから、早く帰してあげないと」
「……そうですね」
秋子の心配げな言葉に同意したところで、ようやく食事にありつけた。
夕食後、祐一と名雪は再び少女を寝かせている部屋に来ていた。
「まだ寝てやがる……おい、そろそろ起きないと家に帰れなくなるぞ」
祐一が眠る少女の頬をぺしぺしと叩く。
「うりゃ」
みょーんっと頬を引っ張る。
「……起きないね」
「ああ、気絶したように眠ってるな」
祐一は自分で気絶させて(以下略)。
「この様子じゃ、朝まで起きそうにないな」
「困ったね」
二人は顔を見合わせる。
「……一晩だけ泊めてあげよっか。ね?」
「…………ああ」
祐一は思うところがあったが、とりあえず名雪の提案に頷いておく。
「じゃ、出ようぜ」
電気を消して退室しようとする祐一。
だが、名雪が顎に手を当て立ち止まっているのに気づき、
「どうした?」
「家族の人に連絡してあげたいから、連絡先の分かるもの持っているか、ちょっと探してみるよ」
「そっか……そうだな。それはお前に任せるよ」
流石に、男の自分が女の子の私物に手をかけるようなことは、遠慮しておく。
「それと、着替えさせてあげるから」
「そうだな。そのままじゃ寝苦しいだろうからな……じゃ、頼んだ」
すべてを名雪に任せ、退散することにした。
「うん」
その返事を聞いてから、扉を閉めた。
名雪の申し出は、祐一としても都合が良かった。
彼女がいる所では絶対にできない話が、今の内にできる。
祐一はキッチンへと降りた。
そこでは秋子が夕飯の片づけをしていた。
祐一が入ってきたことに気づき――もっとも、彼女のことだからそれ以前から分かっていただろうが――顔を向ける。
「あら、祐一さん。あの子、起きましたか?」
「いいえ…………それに関係したことで、秋子さんに言っておかないといけないことがあるんです」
真剣な表情の祐一に対し、秋子はあくまでも微笑を湛えた顔を崩さない。
「実は――あいつ、【理力】を使ったんです」
が、その言葉には流石に驚きを――ほんの少しだけ――表した。
「…確かですか?」
「はい。スーパーの壁へこませてましたよ」
あの場を去る時に、最後に見た光景を思い出しながら、肯定する。
「一瞬でしたけど、確かに【プラナ】を感じましたし……【理術】である可能性もありますけど、術式がなかった以上、やっぱり【理力】だったと思います」
「……そうですか」
秋子が頬に手を当て、考え込むように視線を落とす。
「どうしますか? やっぱり【EDEN】に?」
【EDEN】――【理用者】の保護、支援、監視を司る、世界的な組織だ。
理を用いる者の力は、現代社会とは相容れない。
故に、それは秘匿され、管理されなければならない。
無闇に人前で力を行使するような者が横行すれば、【理用者】の存在はあっという間に人々に知れ渡るであろう。
それを防ぐために、【EDEN】は動く。
少女が正体不明の【理用者】であり、衆目の前でもかまわず力を使ってくるような人間であることが分かっている以上、【EDEN】に身柄を引き渡し、あとは彼らに任せるという祐一の提案は、文字通り〈理に適って〉いる。
しかし、
「いいえ。それは少し待ちましょう」
「秋子さん……」
「あの子の〈事情〉をまだ訊いていません。【EDEN】に知らせるかどうか決めるのは、それからでも遅くはないんじゃありませんか?」
「………でも、あいつがまた力を…しかも家の中で使うようなことになったら、名雪に――」
「大丈夫です」
祐一の不安を抑えるように、秋子は優しく言う。
「私がいますから」
「…………」
短く、単純な――しかし何よりも説得力のある言葉。
祐一は数秒の後、ゆっくりと頷いた。
「分かりました……えっと、でしたらその、一晩寝かしといてやろうと思うんですが」
「了承」
ジャスト一秒の許可を頂き、礼を言ってから、祐一はこっそりと、苦笑した。
“やっぱり、この人には敵いそうにないな”
その後、二階から降りてきた名雪の話によると、少女の持ち物から身元を証明するようなものは、何一つ見つけられなかったらしい。
そのため、少女の家族にも連絡は取れずじまいとなった。
闇の中、冷気の中、何の変哲もない交差点の上。
そこに、轟音と共に巨体が叩き付けられた。
その勢いは凄まじく、また、巨体の質量が並外れだったため、比喩ではなく、一瞬地が揺れたようだ。
巨体の外見は、これまた尋常ではなかった。
四肢の先から伸びた鋭く長い爪。
鋼の如き硬質さを感じさせる赤銅の肌。
横幅は並の人間、三人分はありそうだ。
縦幅もそれくらいあるだろう……いや、あっただろう、と言うべきか。
巨体の身体は、現在は首から上が、どこかに置き忘れてきたが如く、消失している。
首の付け根は、むしり取られた様な歪な傷痕を残していた。
巨体が地を揺らしてから数秒後、スタッと軽やかな音を立て、彼女は宙より舞い降りた。
「…………」
油断なく、視線を前方に投げてから、一秒、二秒――きっかり十秒後、彼女は巨体の絶命を認め、ゆっくりと構えを解いた。
辺りに満ちるのは闇と冷気と、むせる様な血臭。
ヒトのそれとはことなる血の香りは、しかし彼女にとっては馴染みのある臭いだ。
もう何年もこんなことを繰り返し、何年もこの香りの中に身を投じているのだ。
いいかげん、慣れる。
それでも、香りが体に染み付くのはごめんだ。
得物に付いた返り血を振り払いながら、彼女は巨体に背を向けた。
「おつかれ」
かけられる労いの言葉に、彼女は反応を返さなかった。
それでも相手は気にせず、彼女が嫌いなへらへらとした笑みを浮かべながら、言葉を重ねる。
「Aランクの鬼も敵じゃない、か。流石だな」
「…………」
無視。
べつに嬉しくもないことを褒められても、苛立つだけだ。
「後始末は【協会】に、今手配したとこだ。邪魔になんない内に、離れようぜ」
彼女を促し、早くも歩き始める彼が、懐から煙草のパッケージを出したところでようやく、彼女は口を開いた。
「あたしの前で煙草吸わないで」
「…………そうだったな」
意識して冷たく言い放ったのに、彼は不満を見せようともせず、怒るそぶりも見せず、煙草をしまう。
彼女は知っていた。
彼は自分に怒りを向けることがないことを。
そして、それが恐れを感じているからでも、無関心だからでもなく、優しさの表れだということもまた、知っていた。
だからこそ、苛立つ。
自分を気遣い労わり、優しくあろうとする彼に。
それが解かってしまう自分に。
解かっているのに、冷たくあろうとする自分に。
「…………何も訊かないのね」
こんな、余計な会話をしようとする、自分に。
「……何が?」
彼は背を向けたままだ。
すべてを知っているのに、そう訊き返す。
それすらも彼の優しさだと解かる。
解かり、感謝しつつも――心の一方では憤りを感じている。
矛盾だ。
理性と感情が矛盾することも気にくわないのに、今の自分は感情と感情すら矛盾している。
「…………何でもないわ。忘れて」
矛盾し合う感情を、理性で押し付けて話を終わらせる。
それが正しいことだなんて、絶対に思わないけど――
「帰りましょ、北川君」
そう思わないと、やっていけない。
「…………美坂」
「……何?」
北川潤は美坂香里に向き直り、
「さみーし腹減ったから、なんか食ってかねぇ?」
おどけた口調で言った。
香里は彼が、何と応えてほしいのか解かりつつ、
「遠慮しておくわ」
やっぱり、冷たく返すことしか、できなかった。
不意と、目を覚ました。
おぼろげな頭で、枕元の時計を確認すると、午前二時。
深夜と言っていい時刻だった。
何故こんな時間に目を覚ましてしまったのか――首を捻りかけたところで、理由に思い当たった。
廊下に何者かの気配。
隠そうとして、失敗している気配。
名雪ならば、気配を隠そうとするわけがない。
秋子ならば、自分が感じ取れるわけがない。
故に、祐一はその気配の主が、あの少女であることを察した。
“……何をするつもりだ?”
いぶかしみつつ、布団から抜け出した。
少女は音を立てないように、ゆっくりと階段を下りていく。
一階に着くと、きょろきょろと周囲を見回した。
居間のドアに気づくと、これまたゆっくりと廊下を歩いていき、ノブに手をかけ、再びきょろきょろと見回す。
祐一がその姿を階段の陰から見守る中、少女はノブを回し、音を立てないようにドア開け、素早く部屋の中に入っていった。
しばらく待ってから、祐一も気配を消して廊下を抜け、少女が閉め忘れたドアの隙間から、中を覗き込んだ。
「あうーっ……」
中からは、ガサゴソという物音と、少女の声。
「お腹すいたよぉ」
少女はどうやら、冷蔵庫を漁っているようだ。
「簡単に食べられそうな物、見つからないよぉ」
“……なるほどな”
祐一はようやく合点がいった。
“しかし…よく一発でキッチンの場所が分かったな”
彼がそんな感想を思いついている間にも、少女の声は聞こえてくる。
「勝手にこんなパジャマ着せられてるし…」
名雪が着替えさせたのだろう。
冷蔵庫の微光に映し出された少女の服は、カエルのプリントが踊るファンシーなものだった。
「あぅー…お腹ぐぅぐぅいってる……」
“いいかげん止めるか……”
放っておくと生物をそのまま食べかねない少女の様子に、祐一は部屋の中に入り込み、明かりを点けた。
「わぁっ!?」
急に点いた明かりに驚いたのだろう。
少女は大慌てでドアの方を振り向こうとして――
「痛っ!」
ゴンッという音と共に、また悲鳴が上がる。
振り返った際に冷蔵庫の扉に頭をぶつけたらしい。
目を回しながら立ち上がろうとし――ふらつき、キッチン台に手を付いたのがいけなかった。
「きゃああああああああぁぁぁぁーーーーー!!」
ゴロゴロゴロゴロゴローーッ! ガンッ!! グニャッ ビクッ ズルゥッ ガッシャアァァーーーーン!!
すでに散らかしていた食料に手と足を滑らせ、盛大にすっころんだ。
のみならず、床を転がり壁にぶつかり、コンニャクを踏みつけた感触に飛び上がり、また滑って食器棚に頭から突っ込む。
「……なんて間抜けな」
まさか電灯を点けただけで、ここまで大事になるとは思わなかった。
まるでコントを見ているかのようだ。
祐一が呆れる中、少女は涙目で額を押さえて呻いていた。
「ううぅ……死ぬほどびっくりしたよぉ…………お腹空いてただけなのにぃ」
「さもしい奴だな」
その言葉に、初めて誰かいることに気づいたのか、祐一の方を振り向く。
「ああーっ! あんたはっ!! ……あたしをこんなとこに連れ込んで、どうするつもりよ!?」
「べつにどうもしやしない」
「うぅーっ」
威嚇するように、少女が祐一を睨みつける。
そこへ、唐突に第三者の声が届いた。
「よかった、目を覚ましたのね」
「ひゃあ!?」
再び大声を上げる少女。
祐一も声には出さなかったが、やはり驚いていた。
べつに、その声が廊下からのものなら驚きはしなかったが、それはキッチンの奥から聞こえてきた。
「………秋子さん……いつからそこに?」
「祐一さんが部屋に入ってからすぐくらいですよ」
微笑みながら言う秋子。
ちなみに、祐一は部屋に入ってからずっと、扉の前にいた。
祐一と、転がり回っていたとは言えキッチンにいた少女の目を盗んで、その奥まで入り込んだというのだろうか?
“……もはや人間業じゃないな”
ついでに言うと、そこまで入り込む意味が特にない。
おそらく、二人をびっくりさせたかっただけであろうことが分かり、祐一はさらなる疲労を覚えた。
秋子は驚きで呆然としている少女に向き直る。
「お腹空いたの?」
「あぅーっ……」
何を躊躇っているのかは分からないが、少女はしばらく悩む。
しかし、やがてこくんっと大きく頷いた。
「じゃあ、何か作ってあげるから、座って待ってて」
こんな夜更けにも関わらず、秋子はエプロンを巻いて、キッチンに立った。
と、またも居間に誰かが入ってくる。
それが誰かなど、残っている人物に決まっているのだが。
彼女がこんな時刻に起きてくるなど信じられないことだったが、先の大騒ぎは二階にまで響いていたのだろう。
へたをすると、隣近所にまで聞こえていたかもしれない。
「……うにゅ」
半分以上に寝惚け眼の名雪は、ゆっくりと部屋を見渡し、
「……眠い」
「寝ろ」
間髪入れずに返された祐一の言葉を聞きながらも、少女の隣に座って、夜食ができるのを待っている。
「……はぁ」
これで一人だけ寝に戻るわけにもいかないだろう。
祐一も観念して、食卓を囲んだ。
こんな真夜中に一家揃って――しかも客人までいて――夜食を食べる家族など、彼は聞いたこともなかった。
夜食中。
「今からでも遅くない。連絡先くらい教えろよ」
秋子お手製のお茶漬けを食していた少女に対し、祐一はそう促した。
「…………」
しかし少女は貝のように口を閉ざしたままだ。
“……ったく。どういうつもりなんだ?”
祐一は疑問に思いながら、少女を観察する。
それで何が分かるというわけでもなかったが。
“まあいいか……明日じっくり問い詰めれば”
そう結論付けて、残っているお茶漬けを一気にかき込んだ。