Seeker of existence




光也たちはホテルから出たときには、外はすでに暗くなっていた。


「やっぱり、すっかり暗くなってますね」

圭が空を見ながら言った。


「せやねー……今日は、これで終わりにして帰ろか」

恭介は、少し疲れた表情で言った。


先ほど襲われたこともあり、光也と圭は恭介の意見に反対はしなかった。

回収した物を置きにいく目的もあり、部室に一度戻ることにした。





その後は特に何事もなく、光也たちは無事に部室につくことができた。


「それでは光也さん、また明日」

「またな〜、光也くん」

圭と恭介はテーブルにホテルから持ってきたものを置くと、光也を残して部屋を後にした。


光也は疲れていることもあり、早めに寝ることにした。

扉の鍵を閉め、ソファに横になる。

そのまま眠りへと誘われ、光也の意識は闇へと落ちていった。





それからどれくらい経ったのだろうか、光也は不審な物音で眼を覚ました。


起き上がり、周りを見回す。

まず時計が目に付いた。

暗闇の中、時刻を見てみると午前3時。


耳を澄ましてみるが、特に変わった音はしない。

今、聞こえているのは時計の秒針が刻む音くらいなものだった。


(気のせいか……)

光也はそう自分を納得させ、再びソファに横になって目を瞑った。


しかし、あと少しで眠りに付くことができるというときに――

バタンと、廊下で扉の閉まるような音がした。


そして、その後にコツ…コツ…コツ…と、断続的に足音のような音がゆっくりと聞こえてきた。


今度はギィ……と、扉の開いたような音。

しばらくすると、バタンと扉の閉まるような音。


それが何度も繰り返されている。


(一体、何の音なんだ……?)

光也は、さっきからこの妙な音が気になっていた。


(こんな時間に見回りか……?)

それにしては、おかしいことに気が付いた。


よく耳を澄ませていると、扉の開いた音の後にガサガサと何かを探すような音がしているのだ。


(見回りなら、何かを探すなんてしないよな……それじゃあ、一体なんなんだ? ……まさか、泥棒!?)

そんな考えが浮かび、光也は少し怖くなった。


だが、部室の扉には鍵がかかっている。


(さすがに、この部屋には入ってこれないよな……)

丸腰ではもしもの時に困ると思い、手近にあった棒を掴み、光也は息を潜めた。


そしてしばらくすると、扉の前に人が立つ気配がした。


ガチャガチャと扉を開けようとする音。

しかし、鍵がかかっているので扉は開かない。


そしてその後に、ドンドンと扉を叩く音。

しばらくその音は続いた。


突然、何やら扉の向こうが騒がしくなった。

もみ合うような音の後、聞きなれた声が聞こえてきた。


「おーい光也くん、ちょっと開けてくれへん?」

その声は、恭介のものだった。


「恭介、どうしたんだこんな時間に……?」

光也は、小声でそう言いながら扉を開けた。


するとそこには恭介と、恭介に押さえ込まれている人の姿があった。

どうやら、気絶しているらしい。


「これ、誰……?」

光也が尋ねると、恭介は気楽そうに答えた。


「ちょっと、忘れもんしたの思い出してな。学校に取りに来たんよ」

「……それで?」

「せっかくだから、光也くんの様子見てこようと思ってな。そしたら、こいつが扉をドンドンと叩いててな。めっちゃ怪しいから声かけてみたら、いきなり飛び掛ってきたんよ」

「ふむふむ」

「……そんで、今に至る」

恭介は、限りなく物騒なことをものすごく明るく言った。


「……なるほど」

光也は、押さえ込まれてる人を見ながら納得したように頷いた。

ものすごくわかりやすい説明だった。


「結局これ、誰やろね?」

どうやら、とりあえず怪しいから捕まえたらしい。


「さあ、圭の知り合いってわけでもなさそうだし……」

「さすがに、こんな遅くに圭呼び出して聞くわけにもいかんしなあ……」

恭介は時計を見ながら言った。

深夜どころか、すでに早朝に含まれそうな時間帯である。


「とりあえず……地下室にでも入れておこか〜。明日にでも圭に聞いてみりゃええよ」

そう言うと、恭介はいまだ気絶している男の首を掴んで軽々と持ち上げ、地下室へと適当に投げ入れた。


ドンと言う鈍い音がしたが、まったく気にしていない様子で、恭介は地下室への扉を閉めて鍵をかけた。

その上にソファを置き、何事も無かったかのように恭介がその上に座った。


「大丈夫なのか…」

少しだけ不審者の身を案じ、心配したように光也は言った。


「大丈夫、地下室は頑丈だから簡単には抜けてこれへんよ」

どうやら、まったく相手のことは考えてないらしい。


「もし不安なら、俺も今日は泊まってくかな」

その言葉に光也は驚いた。


「あ……家に帰らないでいいのか?」

「まあ、今から帰って寝たら絶対に遅刻確定やし……ここでもうちょっと寝させてもらうわ」

と、恭介は眠たそうな顔で言った。


「8時くらいに起こしてくれな……それじゃ、オヤスミ……」

そう言ってソファに倒れた途端、恭介から寝息が聞こえてきた。


「……寝るの早いな」

光也は少し呆れたように言ったが、しばらくして結局自分も眠りについた。





光也は、何かがぶつかったような音で目を覚ました。

辺りを見てみると、テーブルに乗っていたものなどが落ちている。


「これが落ちたのか? でも、何でこんなことになってるんだ……?」

光也はさらに辺りを見て、恭介がソファに居ないことに気づいた。


「あれ? 恭介、もう起き――なわけないか……」

言っている途中で、光也は恭介が部室の入り口の前で寝ているのを見つけた。

時計を見ると、後5分ほどで8時なので、恭介を起こすことにした。


「おーい、恭介起きろ〜」

体を揺すりながら言う、しかし起きない。

耳元で目覚ましを鳴らすが、一向に起きる気配が無い。


そこに圭が入ってきた。


「光也さん、おはようございます」

圭は恭介に気づく様子もなく、にこやかに思い切り踏みつけた。


「わっ!?」

光也は驚いて声をあげたが、恭介は起きない。


圭は「どうしました?」と言って、そこに立ち止まった。

恭介の体に、圭の両足が完全に乗っている。


しかし、恭介はまったく起きる様子が無かった。


「圭、足元……」

光也はそう言い、恭介を指差した。

圭は特に慌てた様子も無く、ゆっくりと恭介から足を下ろした。


「恭介は、こうでもしないとなかなか起きませんよ」

そう言うと、圭はどこからかフライパンを出し――あろうことか、恭介に向かって直接振り下ろした。


ゴン


鈍い音が鳴り、しばらくしてから恭介はゆっくりと起き上がった。


「痛……加減しろよな……死ぬかと思ったわ」

恭介は、激痛がする頭をさすりながら文句を言った。


「朝、ニュースでやってたんですけど……これ、見ました?」

圭はそんなことなど聞こえなかったかのように鞄から新聞を出してそして開いた。


光也と恭介は、そろって新聞を覗き込んだ。

圭が開いているページには、火事の記事が大きく載っていた。


「へぇ、ホテルで火事か……って、このホテルって!」

光也が言おうとしたことを圭が続ける。


「はい、昨日行ったところです。火元は……どうやら、ぼくたちが調べていた部屋みたいなんです。しかも……出火時刻も、ぼくたちが出て行ったすぐ後みたいで……」

「それって……ヤバいんじゃないのか?」

光也は心配そうに言った。


「まあ、ぼくたちが放火したんじゃないかって、疑われてもしょうがない状況ですね」

圭が深刻そうに言葉を返した。


「もしかして……その火事が、あのメッセージのことなんじゃないか?」

恭介が、突然明るい声で言った。

恭介の言ったことに、圭は同意するように頷いた。


「おそらくそうだと思います。下手したら、ぼくたちも火に撒き込まれていたでしょうね……」

光也はもし巻き込まれたら……と想像し、背筋が寒くなった。


「あ、そういや……」

恭介は、あることを思い出して圭に尋ねた。


「話は変わるが……昨日の夜、変なやつが来たんやけど……圭の知り合い?」

それに対して、圭は首をかしげた。


「どんな人ですか?」

恭介は詳しく説明しようとしたが、面倒になったようで、結局一言にまとめた。


「そりゃ、変なやつや」

「…………あの」

「あー……今地下室におるから、見に行きゃわかるわな」

と言って、地下室への扉を指さした。


そして3人は、恭介が捕まえた不審者の様子を見に行くことになった。





第8話 第10話

BACK