Seeker of existence




光也たちは、男が居るはずのホテルに向かって歩いていた。


少し前に、妙な影に襲われた以外は特に何も無く、光也たちはホテルの前にたどり着いた。

ホテルは5階建ての建物で、出来たばかりのように綺麗だった。


光也たちは少し薄暗くなってきている空を背に、ホテルの入り口に入っていった。

ホテルのロビーまでくると、圭が光也と恭介に向き直った。


「ちょっとここで待っていてください」

そう言うと圭はフロントに行き、何やら従業員らしき人物と話している。

光也たちの居る所からでは、会話の内容は全く聞こえない。


圭が何かを言っているようだ。

すると話している人の顔色がみるみると変わっていき、フロントの奥に引っ込んでしまった。


そして少しすると、今度は体格のいい人が慌てて出てきた。

さっきの従業員が呼んだのなら、このホテルの支配人なのだろう。


ホテルの支配人は、なぜか圭に何度もペコペコとお辞儀をしている。


その顔には、若干畏れのようなそんな表情があった。

圭が何か言うと、支配人は慌てて何やら調べ始めた。


それから数分して、支配人から何かを受け取り、圭が何食わぬ顔で戻ってきた。


「男はお昼くらいからどこかに出掛けていて、まだ戻ってないみたいです。とりあえずその男の部屋のキーを借りたんで、行ってみましょうか」

「一体どうやったんだ……? そんなこと普通出来ないだろ」

光也は少し驚きながら言った。

すると圭はうっすらと微笑み、答えた。


「ここのオーナーは、昔からのちょっとした知り合いなんですよ。それで、ぼくの頼みって事で快く聞いてくれました。」

とてもじゃないが、快くとは思えなかった。

と、光也は心の中で呟いた。


圭が支配人から借りたキーには、数字で“302”と書かれている。

男は3階の一室に滞在しているようだ。


光也たちがエレベーターの前に来ると、ちょうど1階に下りて来たところだった。


エレベーターのドアが開く。

そして中には3人ほど客らしき人が乗っていた。

その客たちが降りてから、光也たちはエレベータに乗った。


エレベータはしばらくしてチンと鳴り、ドアが開いた。

そして、光也たちが降りるとエレベータは再び1階に向かって下り始めた。


光也たちは廊下を歩き始めそして、圭が借りたキーの部屋の前に来た。

そこで、恭介がなにやら手で待てという仕草をした。


そして静かにするようにジェスチャーをして、部屋のほうに聞き耳をたてた。

光也も、それを真似て部屋の中の音に耳を澄ませた。


中からは、時折コンコンと何やら音がしている。

圭の言ったことが正しければ、誰も居ないはずである。


鍵はオートロックなので、ドアを閉めれば自動で閉まるはずだ。


光也たちは意を決して、鍵を開けて中に入り込んだ。

念の為ドアを開けたままにして、光也は部屋の中を見渡した。


電気は点いたままで、窓が開いている。

そして、風に揺られて窓の近くにかけてあった服が揺れている。


どうやら、音の原因はこの服らしい。


さらに周りを見ていると、ベッドの上に無造作に置かれているラップトップ型のパソコンは電源は入っており、テーブルの上には何やら書類が散乱している。

おそらくは、窓から吹き込んだ風で飛んだのであろう。


ホテルに備え付けてあるテレビも、電源がついたままだった。

ニュース番組が、明日の天気を伝えていた。

明日はどうやら全国的に雲ひとつ無い快晴らしい


この部屋の男は外出中なので、当然のことながら人の姿は無かったが、ついさっきまで誰かが居たような感じだった。


「もったないことするねぇ……出掛けてるのに電気つけっ放しだなんて」

恭介は、心底もったいないといった口調で言った。


「多分、ちょっと出て、すぐ帰ってくるつもりなのでしょう」

それに対して、圭がゆったりとした口調で返した。


「それじゃあ、帰ってこないうちに調べれるところはとっとと調べるとするか」

光也が言うと、2人は頷いた。


そして早速、圭は周りを見回して捜索を始めた。


恭介はというと、


「俺はそれじゃ誰か来たりせんように見張っとくわ」


と言って、部屋から出て行った。


圭は、室内を色々と物色している。

窓の周りを調べ、かかっていた服の中も調べ……

そして一通り調べ終わった後で、ベッドの上のパソコンを手にとった。


「やっぱり手掛かりになりそうなものは、このパソコンと書類くらいですね」

そう言うと圭はそのパソコンを使い、何やらやり始めた。


「何してるんだ?」

光也が圭に尋ねると、圭はこちらを振り向かずに答えた。


「このパソコンに何か無いかなと思いましてね、ちょっと色々調べてるんですよ」

圭はそう答えている間にも指をカタカタと動かして、色々なことをやっているようだった。


光也が後ろから覗き込んでも、まるで何をやっているのかがわからなかった。

邪魔をしては悪い気がしたので、光也は散乱している書類をまとめ、そしてそれを見だした。

それから2分くらいして、光也は圭の呼ぶ声を聞いた。


「どうした? 何かあったか?」

光也が尋ねると、圭はパソコンの画面を光也に見せた。


「こんなものがありましたよ。」

圭は、やや複雑そうな顔で言った。

光也がそのパソコンの画面を覗いてみると、文字が書かれていた。


『ここから逃げろ』

光也はそれを見て、圭と同じように顔をしかめた。


「多分、この部屋の男が残したものだと思います。何が目的かはわかりませんが……」

「でも、逃げろってどういうことだ?」

「罠かもしれませんし、本当に忠告しているのかもしれません……まあ、書いた本人じゃなきゃわかりませんよ」

「どうするか・・・」

光也は圭に尋ねた。


「逃げるというわけでは無いですが、手掛かりがいくつか手に入ったので、一旦出ましょうか」

そう言うと、圭はパソコンと光也がまとめた書類をどこからか出した鞄に入れて部屋を出た。

光也もそれに続き、男の部屋を後にした。

2人はエレベータの前で恭介と合流した。


「やっと終わったんか? まあ、誰も来んかったよ。というか、エレベータ自体が動かんかったし。待ちくたびれたわ」

恭介は、若干退屈で疲れているような表情で言った。


「お疲れ様です」

光也と圭は、苦笑しながら恭介の肩を叩きながら言った。


「そんで、どうだったん?」

恭介は、期待するかのように聞いた。


「詳しいことは、歩きながらでも話しますよ」

それに対して、圭が真面目な顔つきで答えた。

エレベータは1階で止まっていたので、これくらいの階数ならと、帰りは階段で行くことになった。


「で、なんか手掛かりはあったん?」

恭介は階段を下りながら2人に尋ねた。


「一応、手掛かりになりそうなパソコンと書類とかは持ってきたけど……」

光也は最後少し口ごもったが、それにつなげるように圭が続けた。


「パソコンに変な文章があったんですよ。『ここから逃げろ』っていう」

「なんやそれ? いたずらか何かか?」

「わからない」

光也は首を振った。

圭も同じように首を振っている。


パソコンの謎の文章について話していてもわからないので、この場でこれ以上事件についてことが無く、結局雑談に変わっていった。

そうこう話しているうちに1階に到着した。


「……これからどうする?」

光也が二人に聞いた。


「一旦戻りませんか?」

圭がそう言うと、光也はなぜ戻るんだと言いそうな顔をした。

圭は光也の顔に気づき、説明をした。


「パソコンとか書類を持って来たでしょう? それを部室に戻って調べるんですよ」

そう言われ、光也は納得した。

恭介もそれでいいようだった。


圭は2人が納得した事を確認すると、キーを返して来ると言ってフロントに向かっていった。

その様子を見ていると、やはり支配人はビクビクしており、他の従業員たちもかなり怯えているように思えた。

再び圭は何かを言っているが、光也たちが居るところからでは聞きとることが出来なかった。

それから少しして、圭が戻ってきた。


「さて、戻るとしましょうか」

圭はやけに明るい口調で言った。


光也はフロントに眼を向けた。

従業員たちは、こっちを見ながらずっと怯えているような顔をしている


(従業員は何を怯えているんだろう……?)

光也がそのような事を考え、少し立ち止まると、前に居た圭が振り向いた。


「どうしたんですか? 早く行きましょう」

「あ、ああ。今行く」

圭にそう言われて、光也は圭と恭介の後を追った。


そうして、光也たちはホテルを後にした。





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