Seeker of existence




「う……んん?」

窓から差し込んだ日の光で、光也は目を覚ました。

光也はゆっくりと目を開ける。


(……あれ?)

目に映ったのは見慣れない天井だった。

意識がはっきりしてくるにつれ、昨日のことを徐々に思い出していく。


(そうか……俺……)

ここが新聞部の部室であることを思い出し、昨日のことが夢でなく現実だということを再認識させられる。


「はあ……」

壁にかかっている時計を見ると、八時をさしていた。

普段なら、学校に向かっている途中だろう。


……寝坊しなければ。


「そろそろ起きるか……」

大きく伸びをして、寝ていたソファから起き上がる。

畳に直接寝るよりかは、寝心地がよかった。

それを待っていたかのようなタイミングで、扉をノックする音が聞こえてきた。


(誰だ……?)

圭たちはこの部室は巡回のルートから外れていると言ったが、油断はできない。

少し待ってから、そろりそろりと扉を開けた。


扉のわずかな隙間から、圭の顔が見えた。


「光也さん、おはようございます」

昨日と変わらない柔和さをかもし出しながら、圭は部屋に入ってきた。


「あぁ、圭か……おはよ」

「今、起きたんですか?」

圭は机にカバンを置き、中からビニール袋を取り出している。


「ああ、おかげでぐっすり眠ることが出来たよ」

「そうですか、それはよかった」

圭はいつもの日課なのか、部室内をてきぱきと片付けていた。


「あれ? そういえば、恭介は?」

光也は恭介の姿が無いことに気づき、掃除を続ける圭に尋ねた。


「ああ、恭介さんは……まだ寝てると思いますよ」

「まだって……もう八時過ぎてるぞ?」

「いつも遅刻ギリギリですから」

そう言って、圭は苦笑していた。


「たぶん、朝はこっちに来ませんよ」

(来ない、じゃなくて、来れないだろうな……)

圭は少し呆れているようだったが、いつものことなのかさほど気にしていないようだった。

すぐに掃除を再開したが、あることに気がついたようにこちらに振り返った。


「そういえば、お腹すいてませんか?」

圭の言う通り、確かに空腹を覚えていた。

起きたばかりで、今日はまだ何も口にしていない。


……というか、顔も洗ってないような気がする。


「アイムハングリー」

「そうだろうと思って、一応パン買ってきたんですよ」

圭はビニール袋を手に取り、テーブルの上にパンを置いていく。


「どうぞ、遠慮なく食べてくださいね」

「ああ、ありがとう」

パンの代金のことなどが気になったが、今それを言うのはためらわれた。

朝から気にかけてもらっているのに、さらに気をつかわせるわけにはいかない。


「それでは、僕はそろそろ教室に戻ります」

時計を見ると、すでに三十分近くになっていた。


「ああ、そうだ。一応、僕たちの連絡先を教えておきますね」

そう言って、机の上のメモ帳に二つの電話番号を書いていく。

二つあるうち、片方は恭介の携帯の番号のようだ。


「もし、何か困ったことがあったら、その番号にかけてくださいね」

圭はカバンを持つと、ドアノブに手をかけた。


「それでは放課後に」

そう言って、圭は部屋から出て行った。





しばらくぼーっとして過ごしていたが、ぐーっと腹がなったので中断した。


「それじゃあ、ありがたくいただくとするか」

光也は圭に感謝の気持ちを捧げると、さっそくパンにかぶりついた。

数分もかからないうちにパンをたいらげると、したくを整える。


(じゃあ……とりあえず、外に行ってみますか!)

授業中なのが幸いして、誰にも見つからずに外に出ることができた。

圭のメモはポケットに押し込んだ。

一応、心配をかけないように机の上のメモ帳に外に出かけたことを書いておいた。


外に出ると空は晴れていた。

風も無く、過ごしやすい陽気だろう。


「さて……外に出たけど、どこに行くかな……」

(とりあえず、行けるだけ色々な所に行ってみるか)

そして、光也は商店街に向かって歩き始めた。





商店街に向かう途中で、何か聞こえてきた。


「何だ?」

耳を澄ますと、継続的にウーと鳴っている。

それは段々大きくなっているようだった。


「サイレンか、何かか……?」

しばらくすると、サイレンのようなものは徐々に小さくなり聞こえなくなった。


「……今の音は何だったんだろう?」

考えながら歩いていると、いつの間にか商店街に着いていた。


「さて、どうやって探すかな」

光也が考え込んでいると、後ろから声をかけられた。


「そこの人、危ないぞ! 警戒警報を聞いてなかったのか!!」

声を掛けてきたのは、魚と書かれた前掛けをしている男だった。

どうやら、商店街で魚屋をしている人のようだ。


「警戒警報?」

聞きなれない言葉に、思わず光也は尋ねた。

「それ以外に何がある? ……ひょっとしてあんた、警戒警報を知らんのか?」

魚屋は驚いたような顔をしている。


「え、えぇ……まぁ」

「こいつは珍しい、警報を知らないとは……子供ですら、知らんやつは居ないほどの常識だぞ」

「そうなんですか?」

光也はそれを聞いて驚いたが、さらに質問を続けた。


「ところで……その警戒警報って、何の警戒なんです?」

「それも知らねぇのか?」

魚屋はさらに呆れたようだったが、言葉を続けた。


「さっき、サイレンが鳴ってただろ? あれはな、この近辺でゲートが出現しそうだから警戒しろって言う警報だよ……ったく、ついにこの町にも来やがったか……」

魚屋は返答にウンザリしているのか、少し投げやりに言った。


(ゲート……?)

「……ゲートって何ですか?」

そう光也が思わず尋ねそうになったが、魚屋はあきらかに自分を怪しんでいた。

これ以上、情報を引き出すのは無理だと判断した。


(この世界の常識がない自分が、この世界の人たちと不用意に接触することは思っていたより危険かもしれない……)

「おい、あんた……急に黙り込んでどうした?」

魚屋がいぶかしげに光也の顔をのぞき込んでいた。


「あ、いえ……少し考えごとをしてただけです。そうですよね……俺、何ボケてんだろ。危ないから、すぐに家に帰りますね」

「しっかりしてくれよ……俺はてっきり、あんたがゲートの向こうからやってきたやつかと思ったじゃねえか」

そう言うと、魚屋は安心したようにため息をついた。


「すみませんでした。じゃあ、俺は行きますから……」

「おう! くれぐれもゲートには気をつけろよ!!」

光也が歩きだすと、魚屋はすぐに店内へと戻っていった。





「一体、何なんだ……?」

公園までくると、光也はベンチに座った。

そこで、魚屋からさっき聞いたことをもう一度考え始めた。


(ゲートか……そんなもの、俺の居た世界には無かったはずだ……)

「もしかしたらこれかもな、決定的な差ってやつは……」

手がかりになるかもしれないことを、ようやく見つけることができた。


「まあ……詳しいことは、あとで圭か恭介にでも聞いてみるか」

はやる気持ちを抑えつつ、光也はこれからどうするか考え始めた。

公園の時計を見ると、もう十一時をまわったあたりだった。


「そろそろ昼か……一旦戻るかな、収穫もあった事だし」

光也がベンチから腰を上げると、再びサイレンが鳴り始めた。


(また鳴ってる……)

「このサイレンって、警報だったんだな……覚えておくか」

光也は歩き出した。

気がつくと、いつの間にかサイレンは鳴り終わっていた。






第3話 第5話

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